ちょっといい話

第171話 セッセッセーのヨイヨイヨイ

挿し絵 読者の皆さんは、ご詠歌とか和讃というものを聞いたことがあるだろうか。念仏よりもずっとメロディがしっかりしている日本独特の宗教歌で、鈴を鳴らし、伏せ鉦を叩いてリズムを取りながら唱える。
 実は、私はこのご詠歌が専門なのである。専門といっても研究家ではなく、もっぱら唱える方である。26歳から48歳になる今に至るまで、平均すると月に15回くらいは檀家さんや信者さんにお伝えする生活を続けている。まあ、簡単に言えばご詠歌の先生だ。

 この宗教歌は、祖師や本山を讃えるものの他に、仏教の教えを文語調で易しく詩情豊かに歌い上げる歌詞が豊富にそろえられている(いまでも新曲が作られている)。

あなうれし 行くも帰るも 留まるも 我は大師と 二人づれなり[弘法大師のご詠歌]

人のこの世はと長くして 変わらぬ春と思えども はかなき夢となりにけり(追弔和讃の一節)

 声の出し方は曲によってさまざまで、古来「おごそかに」「ほがらかに」「うららかに」「しとやかに」「しめやかに」などのトーンが決められている。また、その速さも一分間に三十拍から四十五拍くらいまで色々だ(まあ、最近の音楽では考えられないくらいゆっくりということです)。

 今回の札幌の玉介さんからのお題である“セッセッセーのヨイヨイヨイ”は、主として子供の手遊びの冒頭部分のフリのセリフである。“セッセッセーのヨイヨイヨイ”の速さに合わせて本番のリズムも決定されるという、テンポのガイド役も果たしている。手遊びだから、基本的にはなるべく早くできた方が面白い。だから、このかけ声も一回目よりは二回目、二回目よりは三回目のほうが早くなる。その方が遊びに“活気”が出るのだ。
 ところがご詠歌はゆっくりである。聞いていると眠くなる。そう、眠くなるテンポなのだ。私がご詠歌を習い始めたのと長男が生まれたのが重なって、実際にご詠歌を練習しながら子供の背中をやわらかく叩きながら抱っこすることがよくあった。すると、それまでグズっていた赤ん坊がアッという間に寝てしまうのである。
 気がつくと、日本の子守歌とご詠歌のテンポはほぼ同じだった。そして、共通点がもう一つあった。どちらも祈りの歌だったのだ。

 さて、次回はこの春、私が思い知った自らの我が儘を“ギャッ!牛乳パックの買い方”と題して綴りってまいります。今でも牛乳パックを棚の奥の新鮮なものから取る人、必読であります。