ちょっといい話

第178話 お盆

挿し絵
 人は亡くなると、まず草葉の蔭に宿る。そして時間をかけて(子孫の供養を受けて)、山(森)に帰って、先祖(神)となり、子孫を守る。

 この先祖が、一年に二度この世界にやってくる。ピクニックである。一度は正月だ。だから年末になると家々では、お飾りやお節料理を作って神(先祖)を迎える準備をする(帰って来た先祖がいつ帰るのかは調べていないのでよく分からないが、多分、三が日と言われる三日間か、長くても門松が取れる七日間だろう)。

 もう一度がお盆(中元、正式には七月十五日。一年の真ん中という意味)である。これは家や地域によって違うが、二泊三日か、三泊四日のあの世からのピクニックである。

 向こうからやって来るので、基本的にはこちらはよそ行きの格好はしなくていい、こちらは普段着で迎えればいいのである。

 この先祖を迎えるために、親戚一同が実家へ集まる。これが帰省だ。帰省するのは生きた人だけではなく、先祖も帰省しているのだ。

 お盆の場合は、この先祖を楽しく迎えるために踊りを踊る。盆踊りである。

 ……以上のようなことが分からないと、正月とお盆は単なる“休み”となり、帰ってきた先祖はそっちのけで、旅行に行けたりするのだ。
 実家がある人は考えたほうがいい。実家の嫁はこの期間自分の家には帰れない、ということを。親戚や先祖が帰ってくるのに、その家を守っていこうとうする嫁がいないのでは話にならないではないか(古い考え方かなあ……)。このお嫁さんたちが、実家へ帰れるのは正月もお盆も“藪(やぶ)入り”といわれる十六日である。


―――これは、日本人の精神的かつ伝統的な文化である。仏教が日本に入る前からのものだと言われている。これに仏教の盂蘭盆(うらぼん)の考え方がのっかることになる。詳しく知りたい方は“盂蘭盆”、“目蓮”で検索してみると面白いだろう。
 お盆とは、まあなんと、愉快な信仰なのだろうとつくづく思う。
 人はみんな、いつかこの世の役割分担を終える。そして、年に二回、懐かしい人々と面会にやってくるのだ。  私も死んだら、年に二回、懐かしい、そして縁ある人々の所へ帰ってこようと本気で思っている。私の場合、正月もお盆もどちらも二泊三日がいいところだ。それ以上滞在しても、生きてる人に迷惑だろうし、また向こうへ戻ってやることが溜まってしまいそうだからである。
心豊かなお盆をお過ごしくださいませ。

 さて、次回は “仏教と仏道”でまいりましょう。同じのようで同じでない、同じでないようで同じというあたりを、かいつまんで申し上げます。