ちょっといい話

第183話 気持ちの切り換え

挿し絵 年に何回か慶弔が重なることがある。結婚式に参列した日に檀家さんのお通夜、お葬式をやった日に仲間うちの楽しいパーティなどである。

 数年前、たまたま家内の所に遊びにきていた方がいた。私は檀家さんのお葬式から帰宅して、ろくな挨拶もしないで「すみません。これから友人の結婚披露宴の司会なので、その準備をしなくちゃいけないので、お構いできずにごめんなさい」と、着替えをするために住職室へ入ろうとした。その時である。
「まあ、今まで悲しい場所にいて、これからお祝いの席に行くなんて、気持ちの切り換えが大変でしょう」
 この言葉が私の足をとめた。私はニコニコして言った。
「それがね。大変じゃないんですよ。お葬式は悲しいことですけれど、お葬式の間に亡くなった人の遺影に向かって言ったんです。“これから披露宴ですが、あなたのような素晴らしい人生を送るであろう初々しいカップルをお祝いしてきますよ”ってね」
「へえ」
「それから、披露宴では“人はいつか亡くなる。それまでどうやって生きていくのかがとても大切なこと。亡くなる時にお互いに、あなたと一緒で良かったという人生を歩んでいく、素晴らしい人生の初日でありますように”……そんな気持ちで司会をするつもりなんですよ」

 こんなふうに考えているので、日々の暮らしが“悲喜こもごも”でも、右から左、上から下、手の平を返すような気持ちの切り換えは、あまり必要ないのだ(まったく無いとは言いません……)。子供の公園にあるシーソーの真ん中あたりに乗っているようなもので、あまり右往左往しないで済む。
 ああ、えーとですね。私はなにも、右往左往したくないから、そんな考えをしているわけではありません。そういう“後ろ向きな生き方”は好きではないのです。生きていたら、そうなったということです。
 でも、ひょっとしたら、私はそうとう冷たい(クールな)人間かも……。

 “後ろ向きな生き方”で思い出した!次回は気分を変えずに“前向きと重心”でいきます。
「和尚さあ、誕生っていう現象はどう考えても前向きな現象でしょ」と言ってくれた、元気なバンド「輪」のメンバー、ツルちゃんの一言から枝葉をのばした話の展開です。