菅野秀浩のちょっといい話

第4話 寿命

寿命 挿絵

 ホテルの名フロントマンとは、いかに空部屋をなくすかにあるという。だから、キャパシティ100室のホテルでは、予めキャンセルが生じるのを予想して、105室とか107室の予約を受けて、当日読みどおり5〜7人の取り消しがあり、100室が一室の無駄も無く、満室となるようにしなければならない。

 その日一室でも空部屋がでれば、生涯売り残しとして記録されるという厳しさである。

 一日々々に売り残せない、また過剰に予約も取れない。こんな緊張と非情の商売も、あまり例をみまい。

 それに比べると、毎日は何と長閑かで、退屈な一日であろうか。

 今日という日は、特段昨日と変わりはない。朝起きて夜寝るまで、仕事も家庭生活も変化はなく、精々誘われてたまに一杯やるくらいが変化である。
漫然と一日が過ぎても、必ず朝はやってくる。

 今日一日・一時間を無駄にはできないなんて悲壮感はないし、短い生涯の一日を、売り残してしまったなんて感覚はない。

 「寿命」という言葉がある。
「平均寿命」なんて語感から、命の長短をいうと思われているが、長生きするから「寿命」ではない。

 その命は短くとも、生きがいをもって、意義深い、質の高い生活を送ることこそ「寿命」である。今、一分一秒も無駄なく、生き抜きたいと願う方もいる。

そんな方に送る言葉こそ、輝く命、「寿命」であろう。

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